NOMISMA

歴史の「本当?」を確かめる

お金の起源や有名な逸話を、当時の記録と実物に照らして読み直します。

本文を読む目安:約8分 / 本で詳しく読む目安:約88分
確認問題は任意です(この時間に含みません)
読める範囲:全文無料

3分でわかる 歴史の「本当?」の確かめ方

  1. 絵で見る
  2. 数字で見る
  3. あなたならどうする?
  4. くわしく読む

1絵で見る

横に送って見られます

1 / 9

「誰もが知っている話」は、誰かが確かめた話とは限らない

引用の数は、根拠にならない

2 / 9

紀元前1780年ごろ

粘土板は記録そのもの。大麦の貸し付けが書かれていた

円筒印章が二つ押されている

3 / 9

言えるのは「物々交換の社会の記録が示されていない」まで

「無かった」と言い切るのは一歩踏み出しすぎ

4 / 9

「と伝わる」「およそ」。迷いの印は六つの型に分かれる

伝承・推計・諸説・通説・欠落・訂正

5 / 9

測った数と推した数を分ける。桁は信じ、末尾は信じない

1.446g

造幣の記録に書かれた規格の重さ(測った数)

6 / 9

疑うのは入口。もとの記録に当たり、言える線を引く

否定は結論ではなく、作業の途中

7 / 9

有名な言葉ほど、出どころを確かめる

誰が書いたか・本人は書いたか・いつ育ったか

8 / 9

幅のある数は、幅ごと使う。幅を書けるのは確かめた人

大坂城の金は1万8000枚とも、2万8060枚とも

9 / 9

「無い」は三つ。書かれなかった・失われた・最初から無い

まず、どの型かを見分ける

2数字で見る

128件

八つの航路で最も多かった迷いの印「推計」(数に幅がある)

1.337g

重さ1.446g と品位0.925から計算した純銀の重さ

3あなたならどうする?

元の記録には「兵はおよそ2万7000から4万と伝わる。数は史料で食い違う」とあります。あなたが紹介文を書くなら、どう書きますか?

選んでみてください

分かりやすく「約3万の兵」と書く

読みやすくはなります。でもその瞬間、推計・伝承・諸説という三つの印が全部消えてしまいます。

「およそ2万7000から4万と伝わる」と幅ごと書く

これがこの講座の書き方です。幅は弱さではありません。幅を書けるのは、確かめた人だけです。

4くわしく読む

本文をくわしく読む ↓

「貨幣は物々交換の不便から生まれた」という説明があります。よく引かれるのは、アダム・スミスの『国富論』(1776年)第1編第4章です。

スミスは、肉屋とパン屋と酒屋がうまく取り換えられない場面を、「仮にこう考えよう」と書き出しました。家畜が交易に使われた例にはホメロスを、金属の例にはプリニウスを引いています。けれど、物々交換で暮らす社会の記録は挙げていません。

1913年、ミッチェル=イネスは、この説明がスミスの言葉と、ホメロスやアリストテレスのわずかな一節と、旅行者の記録に支えられているにすぎないと書きました。そしてバビロニアでの新しい発見を挙げ、歴史の確かな裏づけは無いと論じました。

古い粘土板には、配分や貸し付けの帳簿が残っています。メトロポリタン美術館の所蔵品には、紀元前3100〜2900年ごろの大麦とエンマー小麦の配分の帳簿や、紀元前1780年ごろの大麦の貸し付けの記録があります。

仮定として書かれた場面と、残っている記録を、分けて読むこと。

身につけたいのは、「それ、どこに書いてあるんですか」と静かに聞き、返ってきたものが記録なのか仮定なのかを確かめる習慣です。

再現画歴史の「本当?」を確かめる — 講座の口絵

この講座で、分かるようになること

  • 文章のなかの「留保」を見つけて、六つの型のどれかを言い当てられる。
  • 「〜と伝わる」と「〜である」の違いが、なぜ決定的なのかを説明できる。
  • 数字に出会ったとき、桁と末尾のどちらを信じるべきかを判断できる。

この講座の本

『歴史の「本当?」を確かめる』

始めから終わりまで通して読む本。図版23点・読み終える目安 約88分・全文無料

本を読む →

詳しい案内

講座の番号:E1

監修: 葉山 満

本文のほかに、演習14問・コイン4点・読む教材10件・参考文献4件 所要時間の出し方

ほかに分かること

  • 自分の書いたものから、出典のない主張を自分で取り除けるようになる。
  • 有名な言葉・法則・逸話の出どころを、三つの実例で点検できる。
  • 「無い」を三つに区別(書かれなかった・失われた・最初から無い)して扱える。

評価方法

講座内の演習14問(確認6・比較0・記述8)。到達は自己評価で記録します。

この講座の8つの章
  1. 「誰もが知っている話」は、誰かが確かめた話とは限らない引用の数は根拠にならない。根拠になるのは史料だけ。
  2. 留保には、六つの型がある留保は書き手の弱さではなく、誠実さの印。消してはいけない。
  3. 桁を信じ、末尾を信じない測った数と推した数を、書くときに区別する。読むときも同じ目で見る。
  4. 疑うことと、否定することは違う疑いは調べるための入口。調べずに否定するのは、信じるのと同じくらい怠けている。
  5. 有名な言葉の、出どころ調べ名言・法則・逸話ほど、出どころが弱い。三つの実例で、点検の手つきを覚える。
  6. 幅の読み方 — 数字の誠実さ「およそ」「幅がある」「資料により違う」は弱さではない。幅を消した数字のほうを疑う。
  7. 「無い」の読み方 — 三つの沈黙書かれなかった、失われた、最初から無い。三つの「無い」は、別々に扱う。
  8. NOMISMA の使い方 — 検索・突き合わせ・留保引いて、二つの編で読み、留保に印をつけ、自分の言葉で書く。学びの回路はこの四拍子。
この講座で読む実例(10)
  • 元寇 日本 1274年 筑前 博多湾
    一文に「推計」「伝承」「諸説」が三重に入っている例。原文で確かめてください
  • ヘレニズム 総論・世界 紀元前155年 メナンドロスのインド
    「〜と伝わります」がどう使われているか。断定していない書き方の実例
  • 銭、ふたたび来たる 日本 1157年 京 大内裏
    人物の能力についての伝承。誰が、いつ、なぜ書き残したかを考える材料
  • グレシャムと改鋳 イギリス 1560〜1858年 ロンドンと後世の書斎
    第5節。名前と中身の年代が違う、最も有名な実例
  • 天下の値段 日本 1615〜1616年 大坂・久能山
    第6節。記録の幅を、幅のまま並べる書き方の実物
  • 和同開珎 日本 708年〜 銭銘をめぐって
    第7節。自明ゆえの沈黙。正史が書き残さなかった読み
  • 一枚の伝記 総論・世界 いま なぜ一枚に想いを
    第8節。歴史をこの手で持つ、ということ
  • 泥の中の手紙 ロシア 11〜15世紀 ノヴゴロド
    王の勅令や造幣所の帳簿ではなく、名も残らない人が名も残らない人に宛てた督促です。貨幣史を下から見るとどう見えるかを、九百年前の樹皮の文面で確かめてください。
  • 稀な一枚 インド 1509〜1529年 貨幣史の空白
    三・四グラムという目方が二千年を隔てて二度現れた理由を、説明できる材料が無いまま置いた一段です。裏づけの無い説明を書かずに章を閉じる、その手つきを見てください。
  • 伯領から王国へ(2) ポルトガル 12世紀 コインブラの造幣の工房
    同時代の発行記録が残っていない貨幣の年代を、どこまで言えるか。1128年とする記述と、1179年より後とする見方を並べたまま置く書き方が読めます。
参考文献
  • An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations — Book I, Chapter IV: Of the Origin and Use of Money — Adam Smith(Edwin Cannan 編1904年版・Econlib) 「物々交換の不便から貨幣が生まれた」という説明の原典(1776)。第1編第4章で、物々交換の不便の場面を「we shall suppose」と仮定として書き出す。全文が読める
  • What Is Money? — A. Mitchell Innes — The Banking Law Journal, Vol. 30, No. 5 (May 1913), pp. 377–408(Internet Archive) 物々交換起源の説明が、スミスの言葉とホメロス・アリストテレスのわずかな一節と旅行者の記録に支えられているにすぎないと書き、バビロニアでの発見を挙げて歴史の裏づけが無いと論じた(p.378)
  • Barter and Economic Disintegration — Caroline Humphrey — Man (N.S.) Vol. 20, No. 1 (1985), pp. 48–72 物々交換と経済の崩壊を論じた人類学の論文。本文は未読(JSTOR 要購読)のため、本講座の本文では引用していない
  • Gresham's Law — George Selgin — EH.Net Encyclopedia of Economic and Business History 『悪貨は良貨を駆逐す』の出どころ調べ。グレシャム自身の言葉ではなく、1858年に H. D. Macleod が命名したこと、法則が成り立つ条件までを整理している

この講座の本文で参照した本と資料です。

料金のご案内

講座の本文と図解の本、国ごとの物語をすべて読めて、貨幣学検定も受けられます。

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