コインをじっくり見る
一枚のコインを、細かいところまで見ていきます。文字、傷、打ち直しの跡。

三百十七年を生きた銭
千六百六十八年、江戸亀戸で生まれた一枚の銭が、渡来銭の時代を終わらせました。その銭は飢饉を越え、昭和の日本まで法律の上で通用し続けます。

つくった国と、使った国
永楽通宝は明で鋳られ、明の国内ではほとんど回らなかった。自国で使わない銭を、輸出のために鋳る国があり、自国で鋳らず輸入した銭を基準にする国があった。

乱の前の年に生まれた銭
幕府が国産の寛永通宝を鋳はじめたのは、島原の乱が起きる前の年でした。税を払えない者の身体が担保になる時代に、六百七十八年ぶりの国産銭が生まれます。

重さが価値になる銀貨と、金で動いた天下
額面を持たない慶長丁銀は、天秤にのせた重さがそのまま価値になりました。この銀貨が生まれた時代、金銀は信仰を揺るがし、十万の兵を集め、城の運命を決めました。

戦争を支えた金貨、ナポレオン
ナポレオンは、戦費を紙で刷りませんでした。代わりに財源となったのは戦争そのものであり、征服地から集めた金属でした。皇帝が欲した金は、一枚の金貨の形をとります。

銭を捨てた国へ、商人が運んだ貨幣
乾元大宝を最後に朝廷は銭を鋳るのをやめました。絹と米で支払いをしていたこの島へ、十二世紀、博多の商人が宋の銭を運びこみます。国家の意思ではなく、損得勘定が貨幣のかたちを変えていきました。

竜を刻んだ銀貨と、紙で支払われた戦費
直径三十八・六ミリの銀貨に刻まれた竜は、英国でも高く評価されました。しかし、この銀貨が生まれた時代、国内では士族の禄が公債に変わり、内戦の費用は紙幣で支払われました。

約束を超えて刷られた紙
この銀行券は、券に記された重量の貨幣と交換するという約束を核としていました。しかし株の値を支えるために刷り増され、やがて信用は崩れます。崩れた後の査定は、五百リーヴル以下の請求を減らしませんでした。

王の身代金から始まった国家財政
王の身代金として支払われた金貨エキュは、やがて戴冠した王の権威となり、戦争を終わらせるための税と富を動かしました。一枚の貨幣が、近代国家の骨格が組まれる時代の中心にありました。

書けば百文になる、という理屈
素材価値は一文銭の五、六枚分。けれど額面は百文。小判を思わせるこの楕円形の銭は、飢饉のさなかに生まれ、やがて国中の藩に模倣されてゆきます。

名目貨幣が開けた小判流出の扉
大坂で餓死者が出るさなか、幕府は財政を支えるため一枚の銀貨を鋳ます。この銀貨が持つ額面と中身の差が、やがて国の金を海の外へ流す扉を開けました。

使い方で分かれた黄金の行方
豊臣方は秀吉が遺した金銀を兵力に換え、徳川家康は全国で通用する貨幣制度を打ち立てました。同じ時代の金銀が、使い方によって正反対の結末を迎えるまでの道のりです。

二十円金貨が定めた円の価値
新貨条例で定められた最高額面の旧二十円金貨。一円を純金一・五グラムと対応させたこの貨幣の価値は、明治三十年に半分になります。その背景には、ロンドンに置かれたままの賠償金がありました。

時は飛ぶ、と刻まれた紙の運命
中央に「FUGIO(時は飛ぶ)」と日時計、その下に「MIND YOUR BUSINESS」。独立戦争の戦費を賄うために刷られた大陸紙幣は、その言葉とは裏腹に価値を失い、一つの慣用句を英語の中に残しました。

紙を信じまい、という記憶の硬貨
ジョン・ローの泡が弾けたあと、フランスの通貨は金属に帰りました。ルイ15世のエキュは、約半世紀続く安定の象徴でしたが、その一方で国の財政は破産へ向かいます。貨幣が静まった時代に、国を蝕んだものがありました。

太陽王の銀貨と空の金庫
1690年に打たれた一枚の銀エキュ。財務総監の改革で財政は一度黒字になったはずでした。それでもなぜ、フランスは貧しくなっていったのか。銀貨が生まれた背景を遡ります。

機械が打つ信用、柱のドル
王冠をいただく二本の柱が、二つの半球をはさむ。歪んだ銀のかたまりから真円の貨幣へ。縁に施された一つの工夫が、削り取りの痕跡を見分ける手がかりとなり、世界に渡る信用の土台を築きました。

故郷に居場所のなかった銀貨
品位が低いゆえに故郷で嫌われた一枚の銀貨がありました。けれど、居場所がなかったからこそ旅に出て、東地中海から北米まで、世界にその名を刻みます。獅子を刻んだ銀貨の長い旅路です。

機械で打つ金貨の精度と美
千六百四十年に生まれた金貨ルイドール。機械で打った完全な円形には、縁を削って金を盗めば一目で分かるようにする狙いがありました。一枚の貨幣が宿す、精度と美、そして富が生まれる裏側を辿ります。

ゼロを二つ消したフランの威信
1960年、フランスはゼロを二つ消した新フランを発行します。目指したのは「重いフラン」という威信の回復でした。一枚の貨幣に託された願いは、やがて世界の通貨秩序へ、そして顔のない市場へと挑むことになります。

王の身代金を数えた太陽の金貨
王権の輝きを宣言するために生まれた一枚の金貨。やがてその金貨は、囚われた王の身代金を数える単位にもなりました。ある金貨が映し出す、栄光と敗戦の二つの場面をたどります。

一枚も発行されなかった銭
昭和二十年、日本は土で銭を焼こうとしました。千五百万枚が窯から出て、一枚も発行されないまま戦が終わります。

戳記だらけの銀貨
打刻で王の顔が潰れた八レアル銀貨があります。重なった印は、この銀貨がどう使われてきたかを考える手がかりです。

同じ通し番号の二枚
大英博物館に、同じ番号の五百エスクード札が二枚並んでいます。片方には無効の印が打たれています。