NOMISMA SCHOLA

史料批判

E1 — 何を信じ、何を疑うか

史料批判 — 科目の口絵

「貨幣は物々交換から生まれた」— 教科書の説明を、最古の帳簿に戻って確かめます。すべての科目の入口です。

監修: 葉山 満 / 本文の読了目安: 科目本文 約 8 分 + 教本 約 86 分 = 約 94 分 / 本文のほかに、演習 14 問・実物 4 点・読む教材 10 停・参考文献 3 件

この科目で、できるようになること

  • 文章のなかの「留保」を見つけて、六つの型のどれかを言い当てられる。
  • 「〜と伝わる」と「〜である」の違いが、なぜ決定的なのかを説明できる。
  • 数字に出会ったとき、桁と末尾のどちらを信じるべきかを判断できる。
  • 自分の書いたものから、出典のない主張を自分で取り除けるようになる。
  • 有名な言葉・法則・逸話の出どころを、三つの実例で点検できる。
  • 「無い」を三つに区別(書かれなかった・失われた・最初から無い)して扱える。

教本 — TEXTBOOK

『史料批判』 First Edition(2026)

一冊まるごとの図版教本。図版 23 点・読了の目安 約 86 分・全文無料

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レッスン(8節)

  1. 「誰もが知っている話」は、誰かが確かめた話とは限らない引用の数は根拠にならない。根拠になるのは史料だけ。
  2. 留保には、六つの型がある留保は書き手の弱さではなく、誠実さの印。消してはいけない。
  3. 桁を信じ、末尾を信じない測った数と推した数を、書くときに区別する。読むときも同じ目で見る。
  4. 疑うことと、否定することは違う疑いは調べるための入口。調べずに否定するのは、信じるのと同じくらい怠けている。
  5. 有名な言葉の、出どころ調べ名言・法則・逸話ほど、出どころが弱い。三つの実例で、点検の手つきを覚える。
  6. 幅の読み方 — 数字の誠実さ「およそ」「幅がある」「資料により違う」は弱さではない。幅を消した数字のほうを疑う。
  7. 「無い」の読み方 — 三つの沈黙書かれなかった、失われた、最初から無い。三つの「無い」は、別々に扱う。
  8. この学校の使い方 — 検索・突き合わせ・留保引いて、二つの編で読み、留保に印をつけ、自分の言葉で書く。学びの回路はこの四拍子。

ケーススタディ — 教材で使う(10)

  • 元寇 日本 1274年 筑前 博多湾
    一文に「推計」「伝承」「諸説」が三重に入っている例。原文で確かめてください
  • ヘレニズム 総論・世界2700年 紀元前 155年 メナンドロスのインド
    「〜と伝わります」がどう使われているか。断定していない書き方の実例
  • 銭、ふたたび来たる 日本 1157年 京 大内裏
    人物の能力についての伝承。誰が、いつ、なぜ書き残したかを考える材料
  • グレシャムと改鋳 イギリス 1560〜1858年 ロンドンと後世の書斎
    第5節。名前と中身の年代が違う、最も有名な実例
  • 天下の値段 日本 1615〜1616年 大坂・久能山
    第6節。記録の幅を、幅のまま並べる書き方の実物
  • 和同開珎 日本 708年〜 銭銘をめぐって
    第7節。自明ゆえの沈黙。正史が書き残さなかった読み
  • 一枚の伝記 総論・世界2700年 いま なぜ一枚に想いを
    第8節。歴史をこの手で持つ、ということ
  • 泥の中の手紙 ロシア 11〜15世紀 ノヴゴロド
    王の勅令や造幣所の帳簿ではなく、名も残らない人が名も残らない人に宛てた督促です。貨幣史を下から見るとどう見えるかを、九百年前の樹皮の文面で確かめてください。
  • 稀な一枚 インド 1509〜1529年 貨幣史の空白
    三・四グラムという目方が二千年を隔てて二度現れた理由を、説明できる材料が無いまま置いた一段です。裏づけの無い説明を書かずに章を閉じる、その手つきを見てください。
  • 伯領から王国へ(2) ポルトガル 12世紀 コインブラの造幣の工房
    同時代の発行記録が残っていない貨幣の年代を、どこまで言えるか。一一二八年とする記述と、一一七九年より後とする見方を並べたまま置く書き方が読めます。

評価方法

科目内の演習 14 問(確認 6・比較 0・記述 8)。到達は自己評価で記録します。

参考文献

  • An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations — Book I, Chapter IV: Of the Origin and Use of Money — Adam Smith(Edwin Cannan 編 1904 年版・Econlib) 「物々交換の不便から貨幣が生まれた」という説明の原典(1776)。本科目が言う『二百年のあいだ繰り返し引用されました』の出どころ。全文が読める
  • Barter and Economic Disintegration — Caroline Humphrey — Man (N.S.) Vol. 20, No. 1 (1985), pp. 48–72 『純粋な物々交換経済の実例は一つも記述されたことがなく、そこから貨幣が生まれた例も無い』とする代表的な検証。引用と検証は別、という本科目の主張の学術的な支え
  • Gresham's Law — George Selgin — EH.Net Encyclopedia of Economic and Business History 『悪貨は良貨を駆逐す』の出どころ調べ。グレシャム自身の言葉ではなく、1858 年に H. D. Macleod が命名したこと、法則が成り立つ条件までを整理している

実在を確認した文献・一次資料のみを載せています。