NOMISMA SCHOLA

図像学

E5 — 何が描かれ、何が省かれたか

図像学 — 科目の口絵

コインは、国家が全国民に配る唯一のメディアでした。だから権力者はそこに載せるものを慎重に選びます。カエサルは生きた自分の顔を載せ、その二か月余りのちに暗殺されました。オランダ共和国の銀貨には王の顔も王の名もありません。そして重要なのは、描かれなかったものです。

監修: 葉山 満 / 本文の読了目安: 科目本文 約 7 分 + 教本 約 45 分 = 約 52 分 / 本文のほかに、演習 8 問・実物 4 点・読む教材 11 停・参考文献 3 件

この科目で、できるようになること

  • 一枚の表裏を見て、どの部位に何があるかを指せるようになる。
  • 肖像が「生きている人」か「死んだ人」かで、意味がどう変わるかを説明できる。
  • 描かれなかったものを問いに変えられる。
  • 図像の変化から、権力の所在が動いた時期を読み取れるようになる。
  • 「生きた顔」の解禁がいつ・どこで起き、何を意味したかを説明できる。
  • 貨幣の図像を、意匠としてだけでなく、時の政権の布告として読める。

教本 — TEXTBOOK

『図像学』 First Edition(2026)

一冊まるごとの図版教本。図版 41 点・読了の目安 約 45 分

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レッスン(8節)

  1. まず、指を差せるようになる表と裏は対。余白は空白ではなく、選択の跡。
  2. 顔が載るまでに、七百年かかった図像は装飾ではなく、保証人の署名。誰が載っているかは、誰が保証しているかを指す。
  3. 描かれなかったものを、問いにする「無い」は強い証拠になるが、「無い」の理由は一つではない。断定せず問いにする。
  4. 顔を捨てた国が、もう一つある顔の無い貨幣には、少なくとも三つの別々の理由がある。同じ形を同じ原因で説明しない。
  5. 生きた顔の解禁 — プトレマイオスからテストンへ生きた自分の顔を刻むことは禁忌だった。破られるたびに、王権の宣言があった。
  6. 小さな布告 — 貨幣は宣伝する貨幣は、国中の手のひらに届く最小の布告。政権は図像と銘で語り、争った。
  7. 敵の文字で語る — 借用の三段他者の文字は、形だけ写され、やがて意味を持って使われ、最後は自らの物語に取り込まれる。
  8. 彫る手の系譜 — 工人から彫刻家へ図像には必ず彫った手がある。無名の工人から名のある彫刻家へ、手の歴史も貨幣史の一部。

ケーススタディ — 教材で使う(11)

  • ヘレニズム 総論・世界2700年 紀元前 323年 アモンの角
    神格化された王が貨幣に載る場面。角という一段の遠慮に注目してください
  • ビザンティン 総論・世界2700年 後 696年 ダマスカス
    第3節の出どころ。顔を消すという選択が、どう説明されているか原文で
  • 神と貨幣 総論・世界2700年 二千七百年 神々の顔から国家の顔へ
    神 → 王 → 国家 → そして「イン・ゴッド・ウィ・トラスト」への一巡り
  • エピローグ 総論・世界2700年 旅の終わり 二千七百年の約束
    すり減った一枚に何が残るか。図像が消えたあとにも残るものの話です
  • ヴァロワの金貨 フランス 1514〜1547年 王国の造幣所
    第5節。「フランソワ一世が最初」という通説を教材が正す一段落。始めたのはルイ十二世です
  • 簒奪者の造幣所 イギリス 296年 奪回されたロンディニウム
    第6節。簒奪者も正統も、貨幣で語り貨幣で争った——プロパガンダとしての貨幣の原点
  • 敵の名を継いだ貨幣 スペイン 1174年〜 トレドの造幣所
    第7節。「カトリックの者たちのアミール」。敵の言葉で信仰を語る金貨の銘を、原文で
  • 円の誕生 日本 1881年 紙幣寮 彫刻室
    第8節。五百近い原版を彫った手と、西洋風になった神功皇后の顔
  • 貨面が言い続けたこと ロシア 20世紀 モスクワ
    国章も穀物も工場も地球儀もあるのに、個人の肖像が硬貨の主な意匠になりませんでした。描かれていないもののほうを見る、この科目の副題そのものの一段です。
  • 貨面の鷲 オーストリア 1945年 ウィーン
    一九四五年に戻ってきた鷲は、両の脚に断ち切られた鎖を結んでいます。紋章が誇りだけでなく、不在の記憶まで刻むことの実例です。
  • 母と息子 韓国 2009年 世論の中
    誰の顔を載せるかは、発行の後まで議論が続きます。五万ウォン券に初めて女性の肖像が入ったとき、色や描き方に何が言われたのかを読んでください。

評価方法

科目内の演習 8 問(確認 7・比較 1・記述 0)。到達は自己評価で記録します。

参考文献

  • Iconclass — Henri van de Waal Foundation 図像の内容を分類する体系。1940年代にライデン大学の美術史家ヘンリ・ファン・デ・ワールが起こし、現在は第4版がオンラインで公開されている。多くの美術館・図書館が所蔵品の主題検索に用いる
  • Silver tetradrachm of Lysimachos(05.44.430) — The Metropolitan Museum of Art 第 2 回の観察課題で使う実物。前 297〜281 年・公有。表=角のあるアレクサンドロス/裏=着座のアテナとニケ。
  • Tetradrachm of Lysimachos(1919,0820.1) — The British Museum 同型の**別個体**の解説。寸法や細部はこの個体のもので、Met の個体とは異なる。

実在を確認した文献・一次資料のみを載せています。