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吼えるライオンの印と、王が読み違えた言葉

リディアの王が砂金から打った世界最初の硬貨。その印は値打ちを請け合うと同時に、王の懐を潤しました。豊かさを極めた王は、やがて神の言葉を読み違えます。

2026-11-01 葉山 満 お金の話
総論・世界 リディア/リディア サルディス

値打ちを請け合う印

紀元前六百年ごろ、リディアの都サルディス。川が運んでくる砂金は、銀を含んだ自然の金、エレクトロンでした。リディアの王は、その金属に、吼えるライオンの頭を打ちます。

この印は、一枚にこれだけの値打ちがある、という王の宣言でした。ところが、硬貨を分析すると、含まれる金は五十四パーセント、銀は四十四パーセントです。川で採れるままのエレクトロンは、平均で金がおよそ七十三パーセントでした。硬貨を打つ前の合金に、銀が足されていたことになります。

研究者クロールは、かなり確かな証拠から、王家がこの硬貨を、川で採れるままのリディアのエレクトロンと同じ値と定めていた、と見ています。クロールによれば、この硬貨で支払うと、一割五分から二割の得が王に残りました。印は、値打ちを請け合う道具であり、王の懐を潤す道具でもありました。

数えるだけで使える貨幣

古代ギリシャの歴史家ヘロドトスは、わたしたちの知るかぎり、金と銀の貨幣を打って使ったのは、リディア人が最初だった、と書き残しています。小売りの商いをはじめたのも、リディア人だった、ともあります。

量りにかけるのではなく、数えるだけで使える貨幣が、人と人との取引を大きく変えました。秤を持ち歩かなくてよい、というのは、一日に何十回も売り買いする者にとって、重い負担を軽くするものでした。ヘロドトスは、貨幣と小売りを、同じ民のはじめたこととして、一つの文に並べています。

純金の硬貨へ

リディア王クロイソスの名は、豊かさそのものの代名詞となりました。それまでのライオンの硬貨は、金を薄めた合金でした。研究者クロールは、値打ちを高く定めすぎた硬貨は、いずれ受け取られなくなると考えます。

紀元前六世紀の半ば、クロイソスは国じゅうのエレクトロンの硬貨を回収し、純金の硬貨と純銀の硬貨に替えます。金属を薄い板に叩き延ばし、塩と重ねて壺に入れ、およそ八百度で熱して銀を奪い、金だけを残しました。こうして生まれた純金だけで造った最初の硬貨は、ギリシャの世界でクロエセイドと呼ばれます。金貨と銀貨を並べて使う、二本立ての仕組みがここに生まれました。

大帝国を滅ぼすだろう

ある日、アテナイの賢者ソロンがクロイソスを訪ねたと、ヘロドトスは伝えます。王は「この世で最も幸福な者は誰か」と問いました。ソロンは、どれほど豊かでも、最期を見るまで、幸福と呼んではならない、と告げます。

やがて東からペルシアの王キュロスが勢力を伸ばしてくると、クロイソスはデルフォイの神託を問いました。ペルシアに兵を向けるべきか、と。答えはこうでした。ペルシアに兵を向ければ、お前は大帝国を滅ぼすだろう。

王は喜び、敵の帝国が滅びると信じて軍を率いました。神託は、どちらの帝国かを言っていません。

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