日本のお金の
制度

As6673 / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
法は、お金の何を定められて、何を定められないのか。
この一冊を 3 分で
- 円は一八七一年の新貨条例で生まれ、お札を出す口が日本銀行に束ねられるまで十四年かかりました。条文が先に立ち、制度が後から追いつきます。
- 法貨は二つの条文で決まっています。日本銀行券は無制限、硬貨は額面の二十倍まで。素材ではなく条文が地位を与えます。発行の権限は法が、発行の額は需要が決めます。
- 日本銀行法第1条は三つの目的を書き、第2条は理念を書きます。二パーセントという数は条文に無く、二〇一三年の決定会合が置きました。
- 財政法第5条は日本銀行の引受けを禁じ、日本銀行法第33条は売買を通常業務に含めます。禁じなかった側が、保有の四割を占めるに至りました。
- 準備率の上限は法が二十パーセントと定め、値は政策委員会が決め、一九九一年から動いていません。超過準備の扱いは法ではなく制度が、三度形を変えました。
- 国債は一九八〇年の券面から二〇〇三年の帳簿へ移り、九十九・九パーセント以上が振替で決済されます。RTGS と DVP は条文ではなく設計です。
- 預金は法貨ではないが千万円まで法が守り、前払式支払手段は未使用残高の半分以上を供託します。三つのお金に三つの法が三つの支え方をしています。
- 中央銀行デジタル通貨を法貨にする条文は、まだありません。方針は準備を語り、報告書は確定しないと断ります。法にできるのは線を引くことで、線の外側は受け取る側が決めています。
目次
条文から、制度へ
第 10 号『現代のお金は、誰の負債なのか』は、同じ史料を帳簿の側から読みました。この本は、条文の側から読みます。日本銀行法、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律、財政法、準備預金制度に関する法律、資金決済に関する法律。五つの法律と、日本銀行と財務省と預金保険機構の説明文と、決定文と統計。素材は史料室の日本語の文書四十九件で、その主張の範囲だけを書きます。
科目 B17『貨幣と法』の第 1 節は、法は定め、独占し、罰せるが、信じさせることはできない、と言います。この本は、その一文を日本の条文で確かめる本です。各停の末尾に四段(条文/法にできること/法にできないこと/限界)を置き、画面に出すのは各章の最初の停だけにしました。残りは内部データとして持ち、繰り返す構造の頁で読めます。
読む順序は、単位と法貨(第 1 章)、日本銀行法(第 2 章)、当座預金と準備(第 3 章)、財政法と国債(第 4 章)、決済の制度(第 5 章)、新しいお金の法(第 6 章)。条文は引用ではなく、史料室の主張の欄にある要約で読みます。原本は史料室の各件から開けます。
通貨の単位と法貨 — 円は、どの条文で円なのか
- 円は一八七一年に生まれ、お札の口が一つに束ねられるまで十四年かかった。
- 法貨は日本銀行券が無制限、硬貨が二十倍まで。条文が地位を与える。
- 発行の権限は法が、額は需要が決める。お金は三つあり、法貨はそのうち一つだけ。
円は、いつ、誰の手で生まれたか
1868 年〜1885 年 東京 紙幣から日本銀行券まで
日本銀行は、お札の歴史を短く語っています。一八六八年に新政府が政府紙幣を発行し、一八七一年の新貨条例で円という単位が生まれ、一八七二年の国立銀行制度で銀行券を出す銀行が並びました。国立銀行は一八七九年までに百五十三行を数えます。
一八七七年の西南戦争の戦費で紙幣が増発され、物価が上がりました。その後始末として一八八二年に日本銀行が創立され、一八八五年五月に最初の日本銀行券、旧十円券が出ます。単位が法で定められてから、お札を出す口が一つに束ねられるまで、十四年かかりました。
この順序に、この本の主題があります。法は単位を定められます。けれど、誰が出すかを一つに束ねるまでには、戦争と物価の混乱と、十四年の時間が要りました。条文が先に立ち、制度が後から追いつく。この形は、以後の章で何度も現れます。
- 条文
- 新貨条例(一八七一)が円を定め、日本銀行法第46条が銀行券の独占発行を定める(日本銀行の解説による)。
- 法にできること
- 単位の名と、発行の権限を定めること。百五十三の口を一つに束ねること。
- 法にできないこと
- 増発した紙幣の値打ちを保つこと。西南戦争の戦費は法の外で紙を増やし、物価が答えた。
- 限界
- この停の年表は日本銀行の解説の範囲で、国立銀行券の中身や物価の数字はこの停では言えない。
法貨は、二つの条文で決まっている
現在 東京 日本銀行法 第46条・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律 第7条
お札と硬貨は、別の法律で法貨とされています。日本銀行法第46条第2項は、日本銀行券が法貨として無制限に通用すると定めます。一度に何枚でも使えます。
硬貨は、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律の第7条が定めます。貨幣は額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する。一種類につき一度に二十枚までです。日本銀行の解説は、この二つの条文を並べて説明しています。
同じ財布の中に、無制限の法貨と、二十枚までの法貨が入っています。違いは素材ではなく、どの法律のどの条文が受け取りの義務を定めているかです。法貨とは、紙や金属の性質ではなく、条文が与える地位でした。
発行の権限は法が定め、発行の額は需要が決める
2025 年 東京 日本銀行の窓口
日本銀行法第46条は、銀行券を発行する権限を日本銀行に与えています。けれど、いくら発行するかは条文に書かれていません。日本銀行の解説によれば、銀行券の発行とは、金融機関が日本銀行当座預金から引き出して日本銀行の窓口で受け取ることです。発行額は、世の中の銀行券に対する需要で決まります。
規模を見ておきます。二〇二五年の一年間に、日本銀行の窓口を通った銀行券の支払いと受入れは、合計で百八十二億枚、百二十・九兆円でした。二〇二五年の大晦日に年を越した銀行券は、百二十・六兆円、百八十三・二億枚です。
権限は条文が与え、額は需要が決める。この分け方は、法にできることとできないことの、最初の線引きです。法は口を一つに束ねましたが、その口から何枚出るかは、受け取る側の都合が決めています。
お金は三つあり、法貨はそのうち一つだけ
現在 東京 決済の三つの手段
日本銀行の解説は、お金を「誰もがそれが手に入るなら交換に応じてもよいと思うもの」と言い、広い意味のお金を三つ挙げます。現金通貨(銀行券と貨幣)、金融機関の要求払預金、そして日本銀行当座預金です。
このうち、強制通用力を持つのは現金通貨だけです。現金通貨の特徴として解説が挙げるのは、強制通用力、支払完了性、匿名性の三つ。要求払預金と日本銀行当座預金にも支払完了性はありますが、強制通用力は条文が与えていません。日本銀行当座預金はきわめて高い信用力と流動性と中立性を持つ、と解説は言います。
法貨と、お金は同じではありません。口座の残高は法貨ではないのに、お金として回っています。法が地位を与えたのは三つのうち一つで、残りの二つは、受け取る側の信用で回っている。この差を押さえておくと、次の章の日本銀行法が、なぜ決済の円滑を目的に掲げているかが読めます。
ここまでの要点
- 条文が先に立ち、制度が後から追いつく(一八七一→一八八五)。
- 法貨の地位は素材ではなく、二つの条文が与える。
- 法が束ねたのは口で、その口から何枚出るかは受け取る側の需要が決める。
- 広い意味のお金は三つ。強制通用力を持つのは現金通貨だけ。
在籍の方にひらいています
この先には、日本銀行法 — 目的、理念、そして二つの禁止、当座預金と準備 — 銀行の銀行の、口座の法、財政法と国債 — 借りてよい条文と、借りてはならない条文、決済の制度 — 帳簿の上で、権利が移る、新しいお金の法 — 資金決済法と、まだ発行しないデジタル通貨、線の内側と、外側、条文を、自分で開く — そして巻末の資料(年表・人物・出典)が続きます。
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