NOMISMA SCHOLA
NOMISMA SCHOLA
COURSE B09 製造技術

歪みから、真円へ

製造技術 — 打つ手と流す手、そして信用を量産する機械

柱のドル(コルムナリオ)— 柱と半球の面

柱のドル(コルムナリオ・8 レアル) 1768 年。二つの半球とヘラクレスの柱、銘は「ウトラクェ・ウヌム — 両者は一つ」。そして、へりに巻かれた縄目の刻み。コブの時代、銀貨はへりを削り取られ、少しずつ銀を抜かれてきた — 刻みのあるへりは、削れば、ひと目で分かる。形の規格化は美観ではなく、信用の技術である — この一冊の主題を、この一枚が体現している。
出典: Public domain(本校実物台帳 real/columnario)

TEXTBOOK 09 / First Edition(2026)
BIG QUESTION

その形は、
何を防ぐための形か。

この一冊を 3 分で

  • 貨幣の作り方は大きく二つ — 打刻(西洋)と鋳造(東アジア)。優劣ではなく、求められたものの違いである
  • コブ貨は歪んでいても通用した。貨幣とは刻印された地金 — ハンマー時代の制約が、そのまま貨幣観になっている
  • 機械打ちが解いた三つの問題(形・縁・品質)は、すべて「不正がしにくくなる」に収束する。美のためではなく、疑わなくてよくするための技術
  • 縁の刻みと銘文は、飾りであると同時に守り —「デクス・エト・トゥタメン」は自らの役割をそのまま名乗っている
  • ねじが精度を、蒸気が量を解決した。カートホイールの二オンスは、産業革命の重さ
  • 造幣所が増えると品質は落ちる — 監督の費用が発行の利益を上回るから。銀行券の乱立(第 6 号)と同じ構造
  • 変えないことも技術のうち。レアルの規格は百八十九年間不変 — 放っておけば必ずずれるものを、ずらさずに保つ技術
  • ブラクテアートは薄さを表現に変えた。標準から外れた技術には「なぜここではそれが可能だったのか」を問う
  • 真円・均一な縁・層構造 — 製造技術の歴史は、信用を量産する技術の歴史である。だからこの本は、章のはじめに必ず実物の形を見る

目次

  1. PROLOGUE打つか、流し込むか
  2. 1ハンマーの限界 — コブという率直な妥協
  3. 2機械が解いた、三つの問題
  4. 3真円の誕生 — 一七三二年、メキシコ市
  5. 4縁は語る — 飾りにして、守り
  6. 5蒸気の量 — 荷車の車輪
  7. 6造幣所が増えると、品質が落ちる
  8. 7規格の長寿 — 変えないことも技術
  9. 8薄さの逆説と、層の到達点
  10. EPILOGUE信用を、量産する
  11. 巻末OBJECTS / PEOPLE / TIMELINE / DATA / SOURCES
PROLOGUE

打つか、流し込むか

まず、見る
  • 下の二枚。左の縁と、右の縁 — 不定形の歪みと、鋳ばりの跡を見分ける
  • 右の中央の四角い孔。装飾か、それとも工程の痕跡か
  • そして問う — この二つの作り方は、どちらが「進んでいる」のか(罠のある問いです)

貨幣の作り方は、大きく二つです。

打刻 — 金属を延ばして円板を切り、極印で挟んで叩く。西洋の貨幣は、ほぼこれです。表面に打圧の力が残り、極印の傷がそのまま写ります(E2 極印研究の材料)。

鋳造 — 溶かした金属を鋳型に流す。東アジアの銭は、ほぼこれです。中央の孔は、鋳造後に竿へ通して縁を仕上げるための工夫でした。

コブ8レアル(打刻)
打刻 — コブ 8 レアル(17 世紀)
寛永通宝 芝銭(鋳造)
鋳造 — 寛永通宝・芝銭(1636〜)
二つの流儀を、並べて見る。左: 銀塊を切ってハンマーで刻印した不定形の 8 レアル — 縁は欠け、一枚ごとに違う顔。イングランド南西部コーンウォールの土から出た発掘個体で、海損の痕をとどめる。右: 江戸と近江坂本で鋳はじめられた国産銭 — 乾元大宝から数えて六百七十八年ぶり。径二センチ半、量目一匁ほど。四角い孔は、鋳造後に竿へ通して縁を仕上げるための工程の痕である。
出典: 左 Royal Institution of Cornwall / CC BY 2.0 右 As6673 / CC BY-SA 3.0(本校実物台帳 real/cob_eight_reales・zeni/kanei-shiba)

見分け方は、慣れれば一目です。打刻は縁が不定形になりやすく、鋳造は縁に鋳ばりの跡が残ります。

⚠ ここで気をつけたいのは、「打刻のほうが進んでいる」ではないということです。鋳造は同じ型から大量に、安く作れます。低額の銭を大量に要する社会には、こちらが向いています。技術は目的に合わせて選ばれています。優劣ではなく、要求の違いです。

打刻と鋳造 — 工程が根本から違う 地金(共通の出発点) 延ばして、切って、打つ 極印で挟んで叩く — 打刻 溶かして、流し込む 鋳型に流す — 鋳造 縁が不定形になりやすい 縁に鋳ばりの跡。孔で竿に通して仕上げ
図解 Z-1 二つの工程。できあがりの縁と表面の質感で見分けがつく。低額貨を大量に要する社会には鋳造が向く — 優劣ではなく、要求の違い。出どころ: 学校 B09 講義 1 の図

この本は TYPE B — 実物観察型です。各章のはじめに「まず、見る」の箱があり、章の終わりに「手の中の確認」が一行あります。この巻の観察の相棒は、そのものです。歪み、縁、刻み、層 — 形の一つひとつが「何を防ぐための形か」を語ります。

その形は、何を防ぐための形か。
手の中の確認作り方を見分けたら、次に問う — この社会は、何を大量に必要としていたのか。
典拠 — 学校 B09 講義 1(打刻と鋳造・孔の工夫・優劣ではない)・実物台帳 real/cob_eight_reales・zeni/kanei-shiba
ここから先は

在籍の方にひらいています

この先には、機械が解いた、三つの問題、真円の誕生 — 一七三二年、メキシコ市、縁は語る — 飾りにして、守り、蒸気の量 — 荷車の車輪、造幣所が増えると、品質が落ちる、規格の長寿 — 変えないことも技術、薄さの逆説と、層の到達点、信用を、量産する — そして巻末の資料(年表・人物・出典)が続きます。

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