NOMISMA SCHOLA
NOMISMA SCHOLA / 貨幣学の学校
TEXTBOOK 12 / 図録 素材で見る

実物を読む

素材で見る — 貝と粘土から、紙まで
表紙の実物
エレクトロンのトリテ 前 610〜560 年頃・リディア サルディス 直径 13mm
CNG coins / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
First Edition(2026)
BIG QUESTION

一枚の実物を、どう見ればよいのか。

この一冊を 3 分で

  • 実物台帳の全点を、素材で分けて並べました。素材は、その社会が「壊れない・分けられる・見分けられる・足りている」の四条件にどう答えたかの記録です。
  • 図版は台帳の写真だけを使い、所蔵とライセンスを全点に添えました。写真の無い裏面、記載の無い直径と量目は「無い」と書き、作っていません。
  • 各章の頭に「この素材の読み方」を置きます。素材から見て、形を見て、印を見て、年と出所を確かめる。順は毎章同じです。
  • 一点ごとに、実物データベースの頁と、その実物が登場する航路の停留所へ導線を張りました。図録は入口で、読む場所は停留所です。
  • 巻末に、素材ごとの時代の分布、無いものの数、編ごとの索引を置きます。数はすべて台帳から数え直したもので、この本の刊行時点の値です。
  • 台帳は 436 点。裏面の写真 277 点、直径の記載 80 点、量目の記載 0 点、停留所に登場 321 点。

目次

  1. この図録の読み方
  2. 1素材の前と、最初の合金 — 貝・粘土・エレクトロン
  3. 2金 — 錆びず、柔らかく、足りない
  4. 3銀 — 歴史の大半で主役だった金属
  5. 4ビロン — 銀の顔をした銅
  6. 5銅と青銅 — 小額の主役、重さの両端
  7. 6錫と鉄 — 代用の素材
  8. 7ニッケルとアルミニウム — 機能で選ぶ二十世紀
  9. 8紙 — 裏づけがあっても、換えられる速さが要る
  10. この図録から、どこへ行くか
  11. 巻末SUMMARY / TIMELINE / DATA / QUESTIONS / DRILL / SOURCES / INDEX / REVISION HISTORY
この図録の読み方

手に取った一枚を、何から見ればよいのか。この図録は、その順を素材から始めます。科目 B02 が示すとおり、素材は四つの条件に同時に答えなければなりません。壊れないこと、分けられること、見分けられること、そして足りていること。四つ目がいちばん難しく、金は足りなさすぎ、鉄は足りすぎました。銀と銅がちょうどよかったのは、偶然に近いことでした。

各章は一つの素材です。章の頭に「この素材の読み方」を置き、そのあとに台帳の実物を年代の順に並べます。一点の欄は、名・編と発行地・年代・素材と形・直径・所蔵とライセンス・台帳の記載・登場する停留所・実物データベースへの導線です。裏面の写真が無いもの、直径の記載が無いもの、量目の記載が無いものは、その旨を書きます。無いものを作らないことが、この図録の約束です。

読む順は毎章同じです。素材を見る。形を見る(円いか、方形か、塊か)。印を見る(打ち込みの痕か、彫刻の型か、鋳型の文字か)。年と出所を台帳で確かめる。そして、その一枚が登場する停留所へ行く。図録は入口で、読む場所は航路です。

READING PATH前に読む: 第 1 号『史料批判』(全文無料)次に読む: 第 13 号『一枚を同定する』(E9)
CHAPTER 1

素材の前と、最初の合金 — 貝・粘土・エレクトロン

この素材の読み方

貨幣の前に、三つのものがありました。数えられ、贈られ、蓄えられた貝。貸借を刻んだ粘土。そして金と銀が自然に混ざった合金、エレクトロンです。中国の航路は、殷や周の墓の子安貝を貨幣と呼んでよいか、いまも決着していないと書きます。市で物と引き換えられた証しが、そう多くないからです。総論の航路は、最古の記録が物々交換ではなく粘土板の貸借だったと書きます。

エレクトロンは、塊ごとに金と銀の割合が違いました。見た目が同じでも値打ちが違い、受け取る側は毎回疑わねばならない。この不確かさが、印を打つという発明を呼び込みました。クロイソスがこの合金を金と銀に分けたとき、素材の歴史は次の二つの章へ分かれます。

台帳にあるもの
3 点(総論・世界2700年 1・アメリカ 1・日本 1)。年代の幅は BC 610–560 から AD 1945(未発行)。裏面の写真 2 点、直径の記載 2 点。
台帳に無いもの
裏面の写真 1 点、直径の記載 1 点、量目の記載は全点。無いものは各欄に「なし」と書き、作っていない。
見るところ
  1. 素材が「値打ちを運ぶ」のか「記録を運ぶ」のかを、まず分ける。貝と粘土は答えが違う。
  2. エレクトロンの色。金だけの黄色と、銀の混じった淡い色の差を、第 2 章・第 3 章の実物と並べて見る。
  3. 印があるか。あるなら、それは装飾か、重さと品位を請け合う宣言か。
貝・粘土・エレクトロン — 世紀ごとの点数(合計 3) 前 7 世紀117 世紀120 世紀1
図解 Z-1 貝・粘土・エレクトロンの時代の分布。出どころ: 実物台帳 coins の map_year を世紀で数えた。台帳にある実物の分布であって、歴史上の発行量ではない。
エレクトロンのトリテ エレクトロンのトリテ
1 エレクトロンのトリテ 総論・世界2700年の航路 / リディア サルディス / BC 610–560 / エレクトロン・円形 / 直径 13mm パクトロス川の砂金=銀を含む自然の金エレクトロンに、リディア王アリュアッテスがライオンの印を打った。重さと純度を国家が保証する——貨幣という発明の最初の一枚とされる。
Unknown / Photography by CNG coins / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
登場する停留所: 総論・世界2700年 第 2 章「リディア」総論・世界2700年 第 16 章「エピローグ」 → 実物データベース
ワンパム(貝ビーズの帯)
裏面の写真なし
2 ワンパム(貝ビーズの帯) アメリカの航路 / 北米先住民(ニューイングランド) / 17世紀(交易通貨の時代) / 貝・塊 / 直径の記載なし 白い貝と紫の貝を磨いて珠にし、糸で織り上げた帯——ワンパムである。北米先住民にとって、それは本来、儀礼と記録と外交の器物だった。盟約を記憶し、語り継ぐための帯が、植民者との毛皮交易の中で通貨としての用法を広げ、マサチューセッツでは十七世紀半ばの一時期、少額支払い向けの法定通貨とされた。恒常的な貨幣の供給がない植民地では、タバコも穀物も釘も支払いに使われた。貨幣とは何か——ドルの物語は、その問いから始まる。
Ian Alexander / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
登場する停留所: アメリカ 第 1 章「貨幣のない植民地」 → 実物データベース
一銭陶貨 一銭陶貨
3 一銭陶貨 日本の航路 / 有田・京都・瀬戸(民間委託) / AD 1945(未発行) / 粘土・円形 / 直径 15mm 昭和二十年、貨幣にする金属が尽き、陶土で銭を焼く計画が動いた。有田・京都・瀬戸の窯で、一銭陶貨は直径十五ミリに成形され、七億枚が計画された。七月に量産へこぎつけたが、必要な数がそろう前に八月十五日を迎える。法的には一枚も発行されないまま、大部分が砕かれた。
Ihimutefu(造幣さいたま博物館所蔵個体) / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
登場する停留所: 日本 第 34 章「金解禁から戦争へ」 → 実物データベース
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在籍の方にひらいています

この先には、銀 — 歴史の大半で主役だった金属、ビロン — 銀の顔をした銅、銅と青銅 — 小額の主役、重さの両端、錫と鉄 — 代用の素材、ニッケルとアルミニウム — 機能で選ぶ二十世紀、紙 — 裏づけがあっても、換えられる速さが要る — そして巻末の資料(年表・人物・出典)が続きます。

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